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司法書士   林 嘉彦
社会保険労務士 亀甲 保弘


小説  『重加算税』   ≪ 第3章 売上除外・U ≫
  

−第 20 話 ( 不 敵 )−


 第19話 ( 95 ) にもどる


 印字された売上金額は、直前に店長が打ち出した、正式な売上金額と違っていた。
 松島は、自分の心臓が大きな音を発てて、口から出そうなのが、はっきり判った。
 落ち着け ! 落ち着け ! と思えば思うほど、自分の声が上擦ってくる。

 「 て・・・ 店・・・ 店長 !  これは ? ・・・・・ 売上金額が自由に変わるではないですか ! 」

 「 ・・・・・ 」
 
 よ〜し、 脱税の動かぬ証拠を掴んだ !!!!

 「 ま・・・ 松島さん・・・・・ 私は、そのダイヤルは使用していません。 」
 「 店長 !  いい加減 諦めたらどうですか ? 正直に喋ってください。 」
 「 でも ・・・・・ 」

 ・・・・・ ここまで来て抵抗するか ? ・・・・・ これでは時間が無くなる ・・・・・ もうすぐ 12時だ ・・・・・ 脱税のシッポを掴んだというのに認めない ・・・・・ この機会に一気に店長を落としておかなければ ・・・・・ なのに ・・・・・ くそ ・・・・・ 深夜に調査続行して、人権侵害だと言われては、元も無くなる ・・・・・ 時間切れとなり、明日社長に相談されたら、また言い訳を考えるだろう ・・・・・ ここは、一気に ・・・・・

 「 店長 !  こうして 2種類の売上金額が出ている事実は認めますね。 」
 「 え ・・・・・ えぇ ・・・・・ しかし私は ・・・・・ 」

 「 店長、 もう少し時間をいただいて、 調査を続けてもいいですか ? 」
 「 えぇ ・・・・・ 私はいいですが ・・・・・ もう、夜中の 1時ですよ。 」
 こうして、深夜の調査続行が 店長の同意の上であることを、確認させながら、慎重に調査を進める松島であった。

 松島は、店長を脅したり、宥めたりしてみたが、店長は頑として認めなかった。

 時間は、午前 2時近くになってしまった。
 結局、 2種類の売上金額が印字される事実だけを確認して、帰らざるを得ない松島であった。


 次の日、西南税務署では この話題で持ちきりであった。

 「 この制御ホストコンピューターの製造会社は ?  機種は ? ・・・・・ 」
 「 製造会社は、香川県の 『 ピース電研株式会社 』 。 機種は 『 ピースタック 7000 』 です。 」
 
 松島は、早速香川県に飛んだ。
 『 ピース電研株式会社 』 は、香川県の臨海地区に存在した。 大法人で国税局の直接所轄である。 そこに他局の単なる一税務職員が、不敵にも反面調査に行くのである。
 形式的には、丁寧に対応してくれるが、ほとんど本気で回答してこない。 在り来たりの回答である。

 「 当社の 『 ピースタック 7000 』 という パチンコ機管理 コンピューターには、確かに 『 割数チェッカー 』 という ダイヤル機能が付いております。 これは、ダイヤルの数値に設定した場合に、各台の 『 出玉 』 ・ 『 入玉 』 が、幾らになるのか参考に出力するもので、それを参考に釘の調整に使用していただくものです。 その先、店の人がどのように利用しようが、私共には関係のない話でございます。 」

 機器の取り扱い説明や機能については、一応回答してくれたものの、大きな進展を得ることはできなかった。
 唯一、この機種には 『 割数チェッカー 』 という機能があり、これを旨く利用すれば、脱税ができるということが確認された。

 ***** この情報は国税局を通じて、全国の税務署に 『 調査情報 』 として流された。 *****
 ***** その後、全国の税務署で、このダイヤルを利用した脱税が摘発されたのである。*****


 数日後、富山興業の本店社長室では、再度社長を追及する松島と小川の姿があった。

 「 社長、こうして 2種類の売上レシートが印字される事実を認めますね。 」

 「 ・・・・・ 」

 「 社長、これは先日の 『 CCC 』 の売上レシートです。 こうして、 2種類の売上レシートが印字できました。 これは先日のものですが ・・・・・ こちらは前回お会いした時、私が社長にお見せしたものです。 事前調査の段階で 『 CCC 』 のゴミの中から把握した、売上レシートです。 社長が 『 自分の店の売上レシートではない ! 』  と否定されたものです。 これらはどれも全く同じですよねぇ。」

 「 ・・・・・ 」

 「 これが、よその店のものだとは、もう言いませんよねぇ ? 」

 「 ・・・・・ 」

 「 社長、正直に言っていただけますね。 」

 社長の富山は、静かに口を開いた。
 「 松島さん、 よく探し出しましたね。 感心しました。 」

 「 確かに、よく見ると この売上レシートは 『 CCC 』 のもののようですな。 」

 「 『 もののようですな ? 』  他人事のような言い方して ・・・・・。 」

 割って入ったのは小川である。
 「 社長 ! 男同士だ ! 正直に喋ってしまえ ! 」

 小川の言葉を無視して、不敵に富山は続けた。

 「 仮にこのレシートが 『 CCC 』 のものと認めましょう。 でも貴方がゴミから見つけた、このレシートの方が正しい売上だと、どうして判るのですか ?  正しい売上は、会社に保管しているこちらの売上レシートですよ。 」

 今日の小川は、松島を無視して社長に詰め寄っていた。
 松島は戸惑った。

 ・・・・・ 小川さん ・・・・・ 今日は本気 ? ・・・・・ 今日も芝居 ???? ・・・・・ 判らぬ人だ ・・・・・ 少し任せてみるか ・・・・・

 「 会社が、実際より多い売上を計上するはずが無いだろう。 多い方を捨てて、少ない方を売上に計上するに決まっている。 」

 「 それは ・・・・・ 税務署 的 な考え方でしょう。 」
 「 税務署 的 ? ・・・・・ 的 ではない !  俺は税務署そのものだ ! 」
 不敵と言うよりも、小川は無敵である。

 社長は、ニヤリと笑った。

 「 小川さん、ではどうやって 私共が脱税したと言うのですか ? そして脱税したお金は どこにあると言うのですか ? 」

 「 今言ったとおり、 『 割数チェッカー 』 を使って、少ない売上金額を印字し、会社帳簿に計上する。 正しい売上金額のレシートはゴミ箱にポイだ !  脱税した現金は社長の遊興費にでも遣ったのだろう。  これは認定賞与で社長個人でも課税だ !  」

 「 ・・・・・ 」

 「 正直に喋って、脱税した 裏預金でも出せば、 処分の方は考えてもいい。 」

 社長は、不敵な笑いを浮かべながら反論した。

 「 小川さん、アンタも乱暴な人だ。 確かに、松島さんが・・・・・嫌がる店長を無理やり脅し、しかも、深夜に打たせた、この売上レシートは本来の売上金額より 5%少ない。 しかし、アナタ方が ゴミ箱から、コソコソと盗んでいった、 こちらの売上レシーが 本来の売上金額だという証拠もない。 」

 「 確かに、深夜ではあったがそれも店長の承諾の上だ。 嫌がる店長を脅した ?  冗談ではない !  俺ならともかく、松島はそんな男ではない ! 」
 今日の小川は本気のようである。
 まさに不敵無敵の戦いである。

 松島が静かに言った。

 「 社長、 『 ゴミ箱からコソコソ盗んでいった。 』 と言われるということは、 『 CCC 』 のものだと認めるわけですね。 」

 「 ・・・・・ 」

 社長は少し真顔になって言った。

 「 松島さん、アナタ方の理論では、私が 『 割数チェッカー 』 を使って、売上の 5%を抜かせているとおっしゃるのですね。 ならば、なぜ、ゴミ箱から持っていかれた売上レシートは、私が売上に計上している金額の 105% になっていないのですか ? 」

 「・・・・・」

 確かに、金額の差は 204,000円 であって、計上している売上金額の 5%ではない。

 今度は、松島と小川が沈黙する番であった。



     第21話 ( 統計 ) につづく



* 登場する人物、団体等の名称及び業界用語は架空のものです。