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小説 『重加算税』 ≪ 第3章 売上除外・U ≫
−第 1 話 ( 半 袖 )−
松島は、市内の高級ホテルのロビーでコーヒーを飲んでいた。 いや、実は
「 ホットミルク 」 である。 松島はコーヒーが苦手なのである。
「 いやぁ・・・松島さんではありませんか・・・・・ 朝日です。」
振り向いた松島は、ぎょっとした。
そこには正装した、朝日昇が立っていた。
そういえば、玄関に 『 朝日家 ・ 夕日家
・ 結婚披露宴 』 と書いてあった。
「 松島さん、お陰で息子の結婚式を、心から祝うことができました。」
「 あのまま、裏金から出した結納では、息子も可愛そうでした。 そのことに気づかせていただいたことに感謝しています。」
「 息子さんの結婚を、心からお祝い申し上げます。」
「 有難うございます。」
朝日は、短く言葉を仕舞って去っていった。
今年の9月は本当に暑い。
それにしても、向かいのホテルでは・・・・・今日、何があったのだろう?
黒い車がたくさん出入りしているが・・・・・
どう見てもヤクザとしか見えないが・・・・・
警察もたくさん出ている・・・・・
「 おやっ、・・・・・今、入っていったのは、
『 ホテル・あさひ 』 の調査の日に・・・・・」
「 タクシーの後部座席で来た、 ”
月曜日
・ 3時 の 8号室専門 ” のオヤジ???・・・・・」
( 以上、第2章 売上除外・第17話より )
---------3ヵ月前の7月 ---------
また、税務署の人事異動の日が来た。
毎年のことではあるが、7月10日・・・・・運命の日が来た。
税務署の人事異動は、毎年7月10日である。
本人への内示は4日前。 一人ずつ署長室に呼ばれて内示されていくのである。
事務官クラスで3年から4年で転勤、統括官クラスで1年から2年で転勤であるが、最近は年配職員が多く、ポストの関係で、統括官クラスでも3年・4年と同じ署に勤務している場合が多くなっている。
辞令一つで管内を移動させられるのであるが、これが1年から4年のペースであり、住居の引越しを伴う場合も多い。
税務職員の宿命とは言え、気の毒なことである。
その人事の権力を握っているのが、国税局の人事課であるが、実際の配置となると人事課だけではできないため、国税局各課の課長が握っている。
この各課課長に、各税務署の署長がそれぞれの力?と人脈?で、自分の署の職員の処遇を指示?、あるいは懇願?すると言った流れが多いと聞いている。
特に統括官の配置は、国税局各課の課長が握っているらしいが、国税局各課の課長もすべての統括官を知っている訳もない。
遠〜い昔の話ではあるが、課長の中には、各統括官が前年見つけた脱税金額の順に、統括官の名簿を並べて人事移動の参考資料にしていた課長もいたほどである。
こんな課長がいるから、統括官も脱税発見の事績を上げなければならなくなるのである。
まさに人事は 「 人事 ( ひとごと ) 」
・・・・・決められた本人は大変でも、決める課長は
「 他人事 ( ひとごと ) 」 なのである。
松島は、西南税務署は2年であるため今年は転勤は無い。
それは、4日前の内示でも判っていた。
それにしても、4日前にしか内示しないのは少々酷である。 たった4日で心の準備をしなければならないのである。
もちろん、辞令を拝命してから新任地に赴任するまでの間には赴任期間があるが・・・・・
法人課税部門では、赴任期間が経過してから、新任地に赴任していたのでは、
「 こいつ、ヤル気がないな ! 」 と評価する上層部もいて、結構早めに赴任して仕事をする者が多いのである。
引越しをしなければならないことも多いが、引越しの片付けは妻にさせて、自分は辞令の翌日から新任地にビジネスホテルを借りて勤務する職員もいる。
本当に税務職員は他の官庁に比べてハードな公務員なのである。
松島の直接上司であった統括官も転勤となった。
その統括官が松島に言った。
「 松島、今度ここに来る統括官は、国税局査察部のバリバリの主査である
『 岩 田 』 が統括官として赴任して来るぞ。」
「 あぁ、そうですか。」
「 査察の岩田??」
松島は色々の場所で、名前を知られているのであるが、反対に他人の事は全く知らないのである。
松島は、国税局査察部の岩田など知らなかった。
査察は国税局が誇る最強の集団である。
テレビドラマや映画にも度々登場する、スゴイ組織である。
その組織能力は他に類を見ない。
一人一人誰を取っても、凄腕の税務職員を全管内の税務署から、国税局に集めているのである。
この組織にマークされたら、その会社はオシマイだ!
( マークされる位、儲かればの話であるが・・・・・
)
調査を職務とする職員の中には、査察に憧れ自分も査察に配属になりたいと思うものが多い中で、松島には査察に対する憧れもなかったし、査察に行きたいとも全く思わなかった。
松島は、 「 査察は組織としては凄いが、個人個人一人一人を取って見れば、同じ
一職員である。 負けるものか! 」 と思っていた。
また、松島の頭の中では、査察は単なる 『
現場 』 の一部でしかなかった。。
松島の憧れは 『 現場 』 ではなく、頭脳集団と言われ、中枢司令部である
『 国税局法人税課 』 であった。
「 松島、多分お前はもう 1年特調班だ。 今年調査する調査先の選定を今からやっておけ。」
「 岩田は厳しいぞ。 俺みたいに優しくないから精魂を入れておかないと、コテンパンにやられるぞ。」
「 あぁ、そうですか。 」
「 まぁ誰が来てもいいけど・・・・・」
辞令の当日、つまり7月10日・・・・・
辞令の出た職員は、署長室で9時から辞令を受け取り、残留職員の見送りを受けその日のうちに、次の赴任地に挨拶に行くのである。
午後、西南税務署の法人課税部門にも、相当数の新任職員が挨拶にやって来た。
このクソ暑い7月10日に、背広にネクタイで正装した
『 汗だら戦士 』 が次々と挨拶にやって来る。
その中に岩田もいた。
身長175センチ位で痩せているが、骨格だけは相当な骨太の体格である。
一見して 『 現場の人 』 と言った雰囲気が流れる人物であった。
松島の受けた第一印象は、 「 紳士タイプではないな。 『
野郎 』 タイプだな。 でも、泥臭くていいや。 変なインテリタイプよりいい。」
位しか感じなかった。
松島が岩田のスゴサ を知るにはこの後 1年を要したのである。
岩田は、挨拶を済ませると自分の統括官席に腰掛けた。
挨拶が済んで引継ぎの打ち合わせを軽くして、その日は旧税務署や引越しの準備に自宅に帰る者が多いが・・・・・
岩田は自分の席に座ってしまうと一向に動こうとはしなかった。
かといって、身辺整理や仕事の準備をしている様子もない。
ただ座っている。
「 このオッサン・・・・・よほど人事に不満があったのかなぁ・・・・・」
松島は一人で想像してした。
岩田が背広を脱いだ。
松島はびっくりした。
白いカッターシャツに紺色のネクタイは、背広の内側からも見えていたが、背広を脱ぐとそれは
『 半袖 』 だった。
これが松島には異様であった。
松島が教えられてきた伝統では、法人税部門は
『 半袖 』 は着ない。
『 半袖 』 は村役人か、ダサい刑事が着るぐらいなもので、税務署では、徴収の年配オジサンが着る物である。
会社の社長連中を相手にする法人部門では
『 半袖 』 は考えられず、またそれが法人税部門のプライドであると思っていた。
「 まさに古い映画に出てくる田舎の刑事だな。
」
一人松島は苦笑した。
さらに松島は岩田の ” 腹 ” を見てびっくりした。
第2話 ( 喧嘩 ) につづく
* 登場する人物、団体等の名称及び業界用語は架空のものです。
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