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司法書士   林 嘉彦
社会保険労務士 亀甲 保弘


小説  『重加算税』   ≪ 第2章 売上除外 ≫


−第 2 話 ( 内 偵 )−

第1話 ( 業界 )にもどる


 
その頃、西南税務署の松島武志は、ラブホテルの一室に居た。 松島は西南税務署の近くにある4階建ての官舎に住んでいる。   4歳・3歳・1歳の男の子が3人いる。 それでもラブホテルに行く時間と相手がいる・・・・・? ? ?

 いや、内偵調査なのである。 内偵調査とは、調査対象にする会社に、事前に客等として入り、内情を調査する手法である。 
 今、内偵調査しているのは、この街の郊外にある 『 ホテル・あさひ 』 である。 松島はここ2週間夕食を済ませると、この 『 ホテル・あさひ 』 の近くに車を停め、ホテルに入る車のナンバーを控えていた。 何番の車が何時に入り、何番の車が何時に出たかである。
 
 車のシートを倒し、眼だけ出して鋭く観察する。 出入口の近くに長時間駐車すると不審に思われるため、出入口とは一定の距離を置く。 しかし、左右どちらから来るか、また左右どちらに帰っていくか判らず、相当苦労する。 双眼鏡も持参するが、用心深いアベックは車の電気を消して出ていく者もいて大変な仕事である。 

 最近の若者は堂々と出入りするが、中年の不倫関係は堂々ともいかない。
 こうした女性は助手席には乗らず、後方座席に乗る。 これがツウなのである。 

 こうした張り込みの仕上げとして、今日はラブホテルの中に客として入る内偵調査なのである。 

 松島は子供3人を無理やり8時に寝かせた。 小さい子供を家に残したままラブホテルに行くことが、不安でたまらない妻を説得し、無理やり連れて行くのである。 
 「 留守の間に火災でも発生しては誰も助けに入れない。 」 そう思った松島はカギは掛けずに出掛ける。 しかし、これも強盗などのことを考えると怖い話ではあるのだが・・・・・ まぁ、仕方がない。 
 
 そう、本当は妻以外の誰かを連れて行けばいいのだが・・・・・それも出来ない真面目な松島であった?

 大急ぎでラブホテルに潜入する。 入る部屋は、出来るだけ入口に近い部屋を選ぶ。 部屋に入ると、早速、設備・料金・食事のチェックをする。 その間も小窓を少し開け、出入りする車のナンバーを控える。 車のライトが眩しくて見えない時は、車種を記入する。 同時に、ビデオ・テレビの有料・無料をチェックする。 また、大人のオモチャ系の金額等もチェックする。 
 
 1時間ほどしたら食事を注文する。 なるべく高いものを注文する。 
 内偵調査にはわずかではあるが、実費が予算化されることがある。 今回も領収書を提示して会計に持参すればそれなりの費用は出してくれるが、ラブホテルで領収書ともいかない。 まして食事の請求はままならない。 
 
 自腹である。 折角自腹でラブホテルに来たなら、 『 やらなきゃ損!! 』 と思う松島であったが・・・・・
 そんな時間も無い。 次から次から車が入って来るのである。 真面目な松島には信じられない光景である。 これが恋人同士ばかりならいいのだろうが、そうとも思えない。 

 部屋のドアに開けられた50センチ四角の小窓がノックされ、食事がここから差入れされた。
 そう、独房の差入れのように。
 
 焼肉定食と煮込うどんである。 食事をした後に、松島はまた焼きソバを注文する。
 「 ラブホテルに何しに来たのか? よく食う奴だ。 」 と思われるかもしれないが、お構いなしである。 
 と言っても全部食べるわけでもない。 

 色々な状況を演出しているのである。 部屋の冷蔵庫も利用する。 大人のオモチャも買おうとしたが、これはさすがに妻に反対されて断念した。 

 こうしている間にも時間は10時となった。 突然フロントから電話がかかってきた。
 「 お取り込み中失礼いたします。 今日はお泊りですか? 」
 「 いや、1時間延長です。」 

 このラブホテルは10時が休憩 ( ショートという ) の時間制限である。 10時までは2時間を基準に、前後30分単位で加算料金を徴収するシステムである。 最近は自動化されたホテルが多い中で、このラブホテルはまだ旧式で営業しているのである。 それにしても、無遠慮な電話である。 客も 『 戦闘中 』 であれば本当に水を注される場面であろう。 

 松島は、11時まで延長時間が有るにも関わらず、10時15分になると、綺麗なままのシーツを手でシワクチャにした。 そして、フロントに精算の電話をした。

 最近のラブホテルは精算も自動計算で、一切顧客とは接触しないラブホテルが多い。 冷蔵庫の中身は商品を抜いた段階でカウントされ、部屋の利用料はボタン操作で表示され、お金を入れるとお釣が出てきて、部屋のロックが解除されて退室できるのである。 

 しかし、このラブホテルはフロントに電話し、言われた料金を備え付けのカプセルに入れ、空気圧でパイプの中をフロントまで送り込み、また、お釣がカプセルに乗って返送されてくるのである。 
 もっと古いラブホテルは、従業員が小窓まで取りに来るのである。 この時の実に不思議な空気は今でも記憶に新しい。

 こんな、話をつい得意に話していると、
 「 おいおい、武志君。 私は昔、そんな古いホテルも、新しいシステムのホテルも知りませんけど。 」
 と妻の声。
 ドキドキ。 ヒャ汗たらり・・・・・ 

 室料 4,500円、 延長料金 2,000円、 食事代 3,300円、 ドリンク 600円、 合計 10,400円であった。

 松島は、比較的新しい 1万円札2枚をカプセルに入れて送金した。
  
 大急ぎで家に帰ったが、子供は3人とも起きて近所迷惑な大泣きである。 官舎の2階の奥さんが来て、なだめてくれていた。
 松島は、 「 妻とラブホテルに・・・・・」 とも言えず、冷たい視線の中、ひたすら謝るのみであった。
 
 群がる子どもの横で妻は赤い顔をして俯いていた。 子どもを置いていったことに対する後悔ではなく、今まで居た場所を回顧しての紅潮であった。




   第3話 ( 特調 ) につづく



* 登場する人物、団体等の名称及び業界用語は架空のものです。